あさはかなふかぼり

あさはかなふかぼり

ある蜘蛛の稼ぎ

うちの玄関先に
七月くらいから2匹の小さなくもがいて、
もっと嫌な虫を捕獲してくれるなら良いわよと
そのままにしておいていた。


彼らは、夜になると糸を貼り
朝になると、糸ごとどこかにかくれてしまうのね。

朝にわたしはいつも
くもよおつかれ。と、思う。




というのも
最初はそうでもなくて。



今年の七月は、とても暑くて
彼らのターゲットの小さい羽虫が盛んに我が家の玄関先にやってきて、その糸にかかった。


だから、七月はしばしば
彼らは大変で、朝になっても
うまく撤収しきれなかったりしてて、
まだそこにいたりして。
羽虫の死骸が酷くてと、それがかかった蜘蛛の巣もあまりにもで
蜘蛛ごとはらっていたのよ。
でも、殺しはしなかった。


わたしが彼らじたいを
無論好きなわけではなくて
若い女の子みたいに
いやーん!虫きらーい!
などとのたまいつつ
これまで長年いきてきた逞しさを誇るかのように、いやああぁぁぁ!でもすまん。たる
毅然としたムシコロリ的な防虫策をとることは
考えなくもなかったけど、
夜蜘蛛は、神様のお使いと小さい頃にきいていたせいか、ただ面倒だったのかは自分でもよくわからない。



だからなのか、また次の晩には
おなじとこに蜘蛛がいて。




8月は、異例なほど涼しい夏になり
わたしの職業の商売にも
一部的にだけど影響がでたくらい。
今年の東日本は、へんな夏だったね。


そう。
だから、寒いから。
羽虫は盛んには発生することなくなって、軒先には、たいして集まらなくなった。
でも、かれら蜘蛛は7月にわたしがあんなにはらったにもかかわらず
まだそこにいた8月。


あの7月のフィーバー時代を、忘れることができないのかしらね…。
と、そのときは思った。

多分もうあんなフィーバーは
あなたがたが生きているあいだにはもうないから。
ほら、こんなに風が冷たくなってる。
別の猟場にいきなさいよ…

ところがいみじくも
あっ、このうちのおかあさん!わたし、夜しか出しませんから!朝になるまえに、撤収しますんで!
なんて聞こえてくるようであるのです。



そして、彼らはまだうちの軒先にいて、
朝晩と設営撤収をつづけているんです。
彼らの寿命を考えてみれば
こんなに永くつづけているんだから
きっと、この稼ぎで充分なのでしょうね。



秋風が吹く吹く
今日この頃。
わたしも、彼らのように、これで充分という生き方をしたいな。
と、共感するあまりに
今もやっぱりムシコロリ的なことをできずにいます。